カフカ論 カフカが何故あのような出口無しの、希望無しの世界を描き得たのかの考察は様々にされている、私においては、カフカはリアリズムとして捉えてきた、リアリズムとは現実を捉えきろうとする意思、私が現実を描くとき、希望を描くのではなかった、自分の感情、自分の環境、状況を、リアリズム写真のように描こうとしただけ、カフカはネガの世界を、ディフォルメ、寓話的ではあるが、カフカの現実であろうとして読んできた、後年、ミレナへの手紙、日記などを読んで、カフカの現実が想像以上に過酷なものであったことを知った、19cのプラハがカフカの描く世界そのものであったこと、また存在することの否定性として、反ユダヤ主義の歴史と世界、その上での個人的劣等意識、二重、三重に、余計者以上に、ホロコーストを意識する生存であったことの、その絶望の中から編み出された作品群であったと知ったとき、書くことでしか存在できなかったという、カフカの必然が理解できた、 絶望は、ペストのリュウ医師の治療をやり続けることしかないと、カミュに言わしめたように、絶望を生きるものには、そこでの作家にとっては書く以外に、その世界を希望的や、理想的ではない現実を、その行方を見据えて書き続ける外無かったという、書くことで自らを救っていた、断食芸人、処刑の話、皇帝の使者、そこに描かれている自虐、シニシズムは、運命への、世界への、呪詛を超えた、カフカ自身において、世界をとらえた喜びであったことだろう、今、核問題を思うとき、この視点こそが私の喜びとなる、リルケでも、ニィーチェでもなく、ましてプルーストでもなく、カフカ的未来透視の世界ではないかと、 M氏が私の作品「父の呼び声」を評して、出家遁世がテーマなのかなーと、当たっているかも、3.11以前は世を疎み、遁世の中に意味を求めていた、それは絶望名人ではなく、人生の達人へ向かって、カフカのような、この世を見つめ切ってやる、書き通してやるという、作品世界だけが実存領域ではないと、逃げることに身を置き、未だ逃げる場所があるとした、そして結婚、子ももうけ、妻の力も借りての遁世の持続であった、癌を得て、やっと遁世意識は取り止めとなったが、健康を回復すると又しても遁世気分が、束の間の人生賛歌にも翳りが出、おつりの人生も喜びとはならず、いたづらに時だけが過ぎ、そんなところへの3.11ではあった、遁世が名実共に自らのものとなった、75歳まで2598日と、時を数える人生へと、しかし、この自分の遁世意識と、世界の非実存状態の乖離、埋めなければと書き始めた行為とは、遁世から帰属への復帰であった、絶望を描くとはこの帰属を否定するために書くという矛盾、カフカにはユダヤ社会があり、それに対立する反ダヤ主義があり、父親があり、帰属を拒む自分と、求める自分があり、その中での絶望であった、それが故の、社会への透視、寓意であった、私においては、対立は遁世となって、逃亡奴隷、方丈記となり、日本的流れに没するばかりであるのだった、遁世も、逃亡も叶わない、存在としての絶望には至っていないのだった、書き続けている絶望、3.11は遁世の格好の口実になっただけ、 絶望名人と私 「将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません」 〜こんな言葉を吐ける者はざらにはいない、太宰の「生まれてきてすみません」より、どれ程攻撃的か、私自身はカフカと違って、家なし、親なし、学歴なしであった、が故に懸命に将来に向かって歩いてきた、今も本当は歩いているのだった、 ぼくの杖には「あらゆる困難がぼくを打ち砕く」とある、 〜可知論、現実主義を得て、私は困難を無視、忘却していった、逃亡でやりすごしてきた、世界はこんなものと、見過ごし、容認してきた、 そのコップが目の前で砕け散り、破片が顔に飛び込んでくる不安、 〜友人、知人の死に際し、いつ自分もと、世界は愛してだけいたいと、 生きがいを感じたことには非難され、けなされ、どこかに逃げようにも出来ない、 〜生きがいを感じたことは、政治活動ではあったが、これが人生の目的ではないとの思いが常にあり、文学こそがと、しかし文学も、書くことと、生きることの乖離があり、生き甲斐ともならず、 しかしBにとっては、その一般は人生で最初の絶壁のように、 〜カフカの一般とは、ユダヤ人、宿命という自覚であった、私にはせいぜい高卒程度のコンプレックスに過ぎなかった、 目標があるのに、そこに至る道がない、実際には尻ごみをしている、 〜目標を常に持たなかった、様々な資格や、賞といったものに、それがどうなのとの、充たされる予感がなかった、 人間の根本的な弱さは、勝利を活用し切れないことである、 〜自由からの逃避のように、目標それ自体からの逃避が、初めから私にはあった、 生きることは、絶えず脇き道に逸れていくことだ 〜私の道は常に脇き道であるとの自覚があった、脇き道で喜びを見出そうと歩いてきた、
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カフカ論
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