メシアン - オリヴィエ・メシアン (Olivier Messiaen)
1940年代になると、より複雑で調性の判別しがたい作品が多くを占めるようになる。第2次世界大戦での捕虜収容所で書かれた『世の終わりのための四重奏曲』、解放後に書かれたピアノ曲『幼な子イエスに注ぐ20のまなざし』、2台ピアノのための『アーメンの幻影』、歌曲『ハラウィ』などである。作品もより長大な傾向を示し、『幼子イエス?』に至っては全曲演奏は2時間を越える。しかしながら後の晩年に至るまで、メシアンの作品は皆長大ではあるが多楽章に分かれ、一つの楽章は長くても10分程度であることが多い。また楽章によっては従来的な意味での調性がはっきりした楽章も存在し、調性の不明瞭な楽章と対比させてコントラストが与えられている。メシアン自身はこの調性的な楽章をキリスト教的な神の顕現と捉えており、例えば『世の終わり?』では第5楽章『主イエス・キリストの永遠性への讃歌』、第8楽章『主イエス・キリストの不滅性への讃歌』と題されている。[5]『幼子イエス?』では嬰ヘ長調主和音と移調の限られた旋法第2旋法を組み合わせた「神の主題」が用いられ、全20楽章中第1楽章と5の倍数の楽章(5, 10, 15, 20)では明確な嬰へ長調が出現し、神への賛美が語られる。[6]メシアンはこれら自作の解説を自ら出版譜の冒頭に詳細に書き表している。また楽譜中にも「インドのリズム」「〇〇(具体的な鳥の種類)の鳥の歌」などと注意書きを入れている。そしてその集大成として、この時期までの自作を解説した著作『わが音楽語法』が1944年に出版された。(日本では1954年に平尾貴四男によって翻訳が出版されたが、現在絶版。)
1946年?1948年にセルゲイ・クーセヴィツキーとその財団からの委嘱によって作曲した『トゥランガリーラ交響曲』によって、メシアンの作風は一つの頂点を迎える。この曲はメシアンの作品としては例外的に非キリスト教的であり、中世の「トリスタンとイゾルデ」物語、またインドの時間と愛に基づいた作品で、歌曲『ハラウィ』、合唱曲『5つのルシャン』と共に3部作を成す。題名は様々な意味を持つサンスクリットの単語から取られ、トゥランガは主に「時間」を表し、リーラは「愛」を表す。[7]この作品は委嘱条件に恵まれて大規模な編成(ピアノ・ソロ、オンド・マルトノおよび大管弦楽)を持ち、また部分的に調性的で親しみやすい響きを持つこともあり、メシアンの最も有名な作品として、クラシック音楽のレパートリーとして世界中で度々演奏されている。
しかしながらこの後、メシアンの作風は大きな転換を迎える。1949年?1950年に書かれたピアノのための『4つのリズムの練習曲』の第3曲『音価と強度のモード』は、付点を含む32分音符単位の音価と、クアジ・ピアノ(やや弱く)などの微細な指示を加えた強度が細分化されて用いており、新ウィーン楽派の十二音技法を強く意識させる音高のセリー(音列)(メシアン自身はモード(旋法)と呼び表しているが、この曲での使用法は実質的にセリーに近い)と共に、厳密な管理のもとでそれらが組み合わされて作曲されている。これは戦後の現代音楽の出発点となったトータル・セリエリズム(総音列技法)の理論を最初に提示した曲として重要である。後にパリ音楽院でのメシアンの生徒だったピエール・ブーレーズがこの曲と同じセリーを用いて「構造I, II」を作曲したほか、同じくパリ音楽院での生徒カールハインツ・シュトックハウゼン、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会でメシアンが講師を務めた際の受講生だったルイジ・ノーノも、トータル・セリエリズムによる作曲法を推し進め、彼ら自身もダルムシュタットで講師としてそれらを後進世代に教授するに至った。そのきっかけを作ったのが他ならぬメシアン自身であるが、メシアンはトータル・セリエリズムによる作曲をその後は実践せず、「鳥の歌」などの(セリーによらない)従来の自己の語法を推し進めながら、より作風を充実させていった。その集大成と言えるのが、1959年?1960年に作曲された管弦楽曲『クロノクロミー』である。クロノは時間、クロミーは色彩を表す造語であり、前述の通りかねてよりメシアンが興味を示していた音楽語法に於ける時間と色彩の表現の極地である。この作品は30分足らずであり、他の大規模作品と比べると所要時間こそ短いものの、作曲語法としてはメシアンの作品全体の中でも最も前衛的な響きを持つものであり、一つの到達点と言うことが出来る。中でも「エポード(叙情短詩形)」と名付けられた第6楽章では、多くの弦楽器がソリストとして扱われながら「鳥の歌」だけで構成されるという特異な響きを持つ。初演こそ前衛音楽に無理解な聴衆から多くの批判を浴びたものの(演奏終了後の挨拶で舞台に歩み寄った際に聴衆の一人から危うく殴られかかったと言う。[8])、メシアンの主要レパートリーとして現在では特に高い評価を得ており、パリ音楽院分析科をはじめとする作曲の分析の授業では定番として用いられる作品である。
他にも1960年以降の中期・後期作品では大規模な管弦楽作品が多い。キリスト教に基づくものとしては4管編成の巨大管弦楽と合唱で2時間を要する『我らの主イエス・キリストの変容』、カトリックのミサで唱えられる信仰宣言(ニカイア・コンスタンティノポリス信条)の終端部分に基づく『かくて我死者の復活を待ち望む』、『天の都の色彩』などが挙げられる。長年の協力者であり、先妻の死去後に再婚したピアニストのイヴォンヌ・ロリオのためにピアノ・ソロを配した管弦楽曲も多く、前述の『神の現存のための3つの小典礼楽』や『トゥランガリーラ交響曲』をはじめとして、日本旅行の印象に基づくピアノと小管弦楽のための『七つの俳諧』、「鳥の歌」に着想を得たピアノ協奏曲『異国の鳥たち』『鳥たちへの目覚め』、全曲演奏で3時間を越えるピアノ曲集『鳥のカタログ』といった作品が挙げられる。オルガン曲も大規模な曲集を多く生み出し、『オルガンの書』『聖霊降臨祭のミサ』『聖三位一体のための瞑想』『聖体秘跡の書』などを作曲した。
晩年も精力的に創作活動を続け、また1960年代には影を潜めていた調性的志向も復活した。アメリカ旅行の際にビル街に辟易し急遽予定を変更して訪れたグランドキャニオンの大自然に印象を得た90分の大作『峡谷から星たちへ…』、フランスの国家プロジェクトとして小澤征爾の指揮で初演された上演に6時間を要するオペラ『アッシジの聖フランチェスコ』、最後に完成した作品でやはり80分の大作『彼方の閃光』がある。最晩年には『四重協奏曲』の作曲を試みたが、こちらは未完に終わり、イヴォンヌ・ロリオがジョージ・ベンジャミンの協力の下で補筆完成させた。
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20TH CENTURY COMPOSERS - From One Century to the NextこのページのURL
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フランス歌曲の百年(グラハム/マルティヌー)
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