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リース-フェルディナント・リース (Ferdinand Ries)Ⅱ

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リース-フェルディナント・リース (Ferdinand Ries)

ボンへの帰郷(1824-1827年)[39歳-42歳]

バート・ゴーデスベルクのリースの家。現在はプレートが飾られている。

リースの帰郷は故郷で歓迎され、地元紙の「ケルン新聞」にその報が書き立てられた[25]。ボン郊外のバート・ゴーデスベルクの父の家を購入し、家族と移り住む。この地はいわゆるイギリス人子弟のグランドツアーの訪問地のひとつに数えられ、ロンドン生活を終えたばかりのリース家にとっては相応しい土地柄であった。

しばらく引退生活を送るかたわら、リースは「ニーダーライン音楽祭」の音楽監督に就任。1825年5月22日には旧師ベートーヴェンの「交響曲第9番」を自身の指揮により再演した[26]。ニーダーラインの都市(アーヘン、デュッセルドルフ、ケルン他)に大きな経済的・文化的効果をもたらしたこの音楽祭は、メンデルスゾーンとの持ち回りにより開催されるようになり、彼は死の前年まで音楽監督を務めた。

この時期に書かれた大作としては「ピアノ協奏曲 第8番 「ラインへの挨拶」 Op.177」がある。しかし、未婚の弟妹や父と後妻一家への経済的援助、また多額の債券を取引していたゴルトシュミット銀行の破産[27]により、生活は当初の予想ほど安泰なものではなくなっていた。

わずか3年で、リースは故郷をあとにし、妻子と共に、大商業都市であるフランクフルト・アム・マインへ移住した。1827年4月初頭、師ベートーヴェンがウィーンで亡くなった直後であった。


フランクフルトでの最後の10年(1827年-1838年)[42歳-53歳]

フランクフルトでの最初かつ最大の収穫は、オペラの成功である。バート・ゴーデスベルク在住時より構想されていた処女作オペラ「盗賊の花嫁」は、台本作家との意見の不一致で制作が難航したものの、1828年10月15日にフランクフルトで初演され、大成功を収めた[28]。師の「フィデリオ」と同じく救出オペラの筋を持つこの作品は、ドイツの諸都市で再演を重ね、早くも1829年7月15日にはロンドンで英語版が上演された[29]。

このオペラの成功、およびニーダーライン音楽祭での「第九」やヘンデルやハイドンのオラトリオの指揮の経験が、リースを声楽ジャンルの開拓に導いた。オペラ3作、オラトリオ2作が、この最後の10年間で作曲されている。


ニーダーライン音楽祭が開催されていたアーヘン劇場(1826年)

国外への活動も精力的に行われた。1831年にはダブリン音楽祭に招聘されたほか、1832年から翌年にかけて、妻とスイス・イタリアに長期旅行。ここでは最後のピアノ協奏曲「第9番 Op.177」、最後のピアノソナタ「Op.176」、最後の弦楽四重奏曲「WoO 48」などを作曲した。1836年から1837年5月にかけては、パリ(コンセルヴァトワールでの演奏会)、ロンドン(フィルハーモニック協会での演奏会)、アーヘン(ニーダーライン音楽祭)を巡るハードな旅程をこなした[30]。

しかし、一方で、全盛期には非常に多作であった筆は、晩年に至るにつれやや陰りを見せていった。1829年に末娘を失った強い精神的打撃[31] は1年近く彼をさいなませ、1832年の手紙には、音楽出版社との関係が芳しくないという言葉もみられる[32]。ピアニストの世代交代や出版作品の大衆化という、1830年代以降の新たな潮流のなかで、彼の作風はシューマンなど一部の若い世代から支持される一方、芸術的にも商業的にも、最前線からは徐々に退いていったといえるだろう。40代より患ったリウマチによりピアニストとしての活動も減少し、妻の持病も不安の種であった。

それでも、リースの名声は1838年1月13日の死に至るまで持ちこたえた。死の前年には、ヨハン・ネーポムク・シェルブレの後を継いで、フランクフルトの合唱団体である「チェチーリア協会」の音楽監督の地位を得ている。

また、「ベートーヴェンの弟子」という肩書は、青年期から人生の最後まで彼に大きな役目を与え続け、彼自身もそれに積極的に応え続けた。ボンのベートーヴェン像建立計画(1845年に完成)にも協力し、チャリティー演奏会を企画[33]。晩年には、友人のヴェーゲラーと共に「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンに関する覚書」を執筆した。残存するヴェーゲラー宛の最後の手紙[34]には、死の病に苦しむ様子に続き、「覚書」に関する膨大な補足が書かれている。
後世の評価
リースはフランクフルトの羊毛商人一家であったクロッツ家の納骨堂に眠っている(フランクフルト中央墓地)

前年まで精力的に活動していたリースの死は、人々を驚かせた。1838年1月13日の死以降、ケルン、ボン、アーヘンなどの各地で追悼演奏会が催された。また、メンデルスゾーンが指揮を執ったその年のニーダーライン音楽祭では、初日の1番目のプログラムとして、リースの交響曲第2番が演奏された[35]。

だが、それ以降、彼の作品は急速に世の中から忘れ去られた。一見するとベートーヴェンの模倣と取られかねない作風や、生前すでに時代の流行から遅れ始めていた作品傾向、また教育に熱心ではなく後継者を持つに至らなかったことなど、複数の要因が考えられる。フェルディナント・リースの名は、重要な音楽家の1人としてではなく、ベートーヴェンの伝記資料の執筆者、およびその伝記内の登場人物としてのみ、音楽史にとどまることになった。

彼の作品が再び陽の目を見るのは、1990年代以降である。CPOレーベルで交響曲全集、NAXOSレーベルでピアノ協奏曲全集およびピアノソナタ全集の録音が完結したほか、ピアノ曲、室内楽、オペラ、オラトリオなどの多くのジャンルの録音が行われるようになった。 研究は、セシル・ヒルによる1980年代の一連の成果が今日でも最も重要であるが、2008年には新たに「フェルディナント・リース協会」[36]が創設され、ウェブサイトでの情報提供や紀要の出版を行っている。また、末弟フーベルトの息子が創設したリース&エルラー社[37]では、近年、リースやリース家一族の多数の楽譜や、紀要の出版を行っている。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンに関する覚書

「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンに関する覚書」は、フランツ・ゲルハルト・ヴェーゲラーとリースの共著による回想録である。主に1837年に執筆され、1838年に出版された。リースの父のフランツ・アントンに献呈されている。

ヴェーゲラーが出自および幼少期から青年期までのベートーヴェンのエピソード、リースがウィーンでの師弟生活のエピソードを綴っている。前者がおおむね編年体であるのに対し、後者はリース自身の「記憶に現れた順序」[38]で書かれており、スタイルには大きな相違がみられる。

両者とも、年代や細部の記憶違い、ないし誇張と推測される部分が散見されるが、それらの問題は後年の研究により多くが訂正されており、今日に至るまで貴重な資料と見なされている。ベートーヴェンに関するエピソードとして非常に有名な「散歩中に笛の音を聞き取ることができなかった」「「英雄交響曲」のナポレオンへの献辞を破り捨てた」などは、この覚書のリースの執筆箇所を出典としたものである。

リースが1838年1月13日に急逝したため、ヴェーゲラーによる序文はリースへの追悼の意が強くこめられた内容となっている。また、リースの執筆部分にはヴェーゲラーによる注釈が添えられている。

人物像と関連人物

リースは故郷のラインラント、ウィーン、ロンドンなどで多くの同時代の人物と交友関係を持った。手紙から伺える印象について、編纂者のセシル・ヒルは「温厚で、人間味があり、高い教養があり、注意深く、世才に長け、すべてにおいて分別のある男」[39]と述べている。またヴェーゲラーは、覚書の序文にて、彼のことを「嘘いつわりのない、きわめて気立ての良い人間」[40]と描写している。

●親族

ヨハネス・リース(1723-1784) 祖父。宮廷ヴァイオリニスト、トランペット奏者。
アンナ・マリア・リース(1751-?) 伯母。宮廷ソプラノ歌手。
フランツ・アントン・リース(1755-1846) 父。宮廷ヴァイオリニスト、作曲家。
アンナ・ゲルハルディーナ・リース(旧姓ホルスト)(1761-1805)母。

リースは11人兄弟の長子であり、弟妹のうち9人が成人している。以下は主な3人である。

(ペーター・)ヨーゼフ・リース(1791-1882) 2番目の弟。リースに招かれてロンドンに渡る。ブロードウッド社に勤め、後年はリースの作品のロンドンでの出版交渉を行った。
フランツ・ヨーゼフ・リース(1792-1860) 3番目の弟。ウィーンでピアノ製作者として活動する。
フーベルト・リース(1802-1886) 末の弟。ヴァイオリニスト、作曲家。シュポアの弟子。ベルリン王都劇場のコンサートマスターとして活躍する。

ハリエット・リース(旧姓マンジン)(1796-1863) 妻。イギリス人。

リースと妻の間には4人の子供が生まれた。唯一の男子であるフェルデンナント・ジェームスが24歳で夭折したため、リース姓の直系の子孫は途絶えている。

●音楽関係者

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827) ピアノの師。
ベルンハルト・ロンベルク(1767-1841) 少年期のチェロの師。のちに北欧・ロシアを共に巡演する。
ヨハン・ゲオルク・アルブレヒツベルガー(1736-1809) 作曲の師。
ニコラウス・ジムロック(1751-1832) 幼少期から家族ぐるみの付き合いがあり、のちにリースの初期作品の多くを出版した。 
ヨハン・ペーター・ザーロモン(1745-1815) リースのロンドンでの音楽活動を支援する。
ルイ・シュポーア(1784-1859) リースの招聘により、1820年にロンドンに渡る。その後、家族ぐるみで親しく交流。1826年のニーダーライン音楽祭で共に音楽監督を務める。
カール・ツェルニー(1791-1857) リースと同時期にベートーヴェンに師事。
ジャコモ・マイアベーア(1791-1864) 1837年のパリ滞在の折に親しく交友する。
フェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847) ニーダーライン音楽祭を持ち回りで開催する。

外部リンク


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リース:夜想曲第1番, 第2番/モーツァルト:セレナード第10番(シュヴァイツァー管楽アンサンブル)

RIES, F.: Nocturnes Nos. 1 and 2 / MOZART, W.A.: Serenade No. 10 (Schweizer Blaserensemble)

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リース:ピアノ・ソナタとソナチネ全集 1 - Opp. 11, 45 (カガン)

RIES, F.: Piano Sonatas and Sonatinas (Complete), Vol. 1 (Kagan) - Opp. 11, 45

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リース:ピアノ・ソナタとソナチネ全集 2 - Opp. 1, 5 (カガン)

RIES, F.: Piano Sonatas and Sonatinas (Complete), Vol. 2 (Kagan) - Opp. 1, 5

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リース:ピアノ・ソナタとソナチネ全集 3 - Op. 9, No. 2 and Op. 26/夢 Op. 49 (カガン)

RIES, F.: Piano Sonatas and Sonatinas (Complete), Vol. 3 (Kagan) - Op. 9, No. 2 and Op. 26, "L'infortunee" / The Dream, Op. 49

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リース:ピアノ・ソナタとソナチネ全集 4 - Op. 9, No. 1 and Op. 141 (カガン)

RIES, F.: Piano Sonatas and Sonatinas (Complete), Vol. 4 (Kagan) - Op. 9, No. 1 and Op. 141

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リース:ピアノ・ソナタとソナチネ全集 5 - Opp. 114, 176, WoO 11 (カガン)

RIES, F.: Piano Sonatas and Sonatinas (Complete), Vol. 5 (Kagan) - Opp. 114, 176, WoO 11

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リース:オラトリオ「イスラエルの王」(ライニッシェ・カントライ/ダス・クライネ・コンツェルト/マックス)

RIES, F.: Konige in Israel (Die) (Max)

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リース:歌劇「盗賊の花嫁」(ツィーザク/ブロンデル/ケルン西ドイツ放送合唱団&交響楽団/グリフィス)

RIES, F.: Rauberbraut (Die) [Opera] (Ziesak, Blondelle, Cologne West German Radio Chorus and Symphony, Griffiths)

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メンデルスゾーン/シューマン/C. シューマン/ロンベルク/ゲーゼ:室内楽作品集(ライプツィヒ・コンソート)

Chamber Music - MENDELSSOHN, Felix / SCHUMANN, R. / SCHUMANN, C. / ROMBERG, B.H. / GADE, J. (Musikalische Morgenunterhaltung) (Leipziger Concert)

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モーツァルト/ウェーバー/ロッシーニ/トマ/ワーグナー:ソプラノのためのオペラ・アリア集(アルノルドソン)(1906-1910)

Opera Arias (Soprano): Arnoldson, Sigrid - MOZART, W.A. / WEBER, C.M. von / ROSSINI, G. / THOMAS, A. / WAGNER, R. (1906-1910)

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ロドリーゴ/リース/バズレール/ブレヴァル/メンデルスゾーン:チェロ作品集(ヘレド)

Cello Recital: Heled, Simca - RODRIGO, J. / RIES, F. / BAZELAIRE, P. / BREVAL, J.B. / MENDELSSOHN, Felix (Simca Heled Collection, Vol. 1)

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リース:チェロ・ソナタ集(ボヌッチ/オルヴィエト)

RIES: Cello Sonatas

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ラインベルガー:ホルン・ソナタ 変ホ長調/R. シュトラウス:アンダンテ ハ長調/リース:ホルン・ソナタ ヘ長調(ヒル)

RHEINBERGER, J.G.: Horn Sonata in E-Flat Major / STRAUSS, R.: Andante in C Major / RIES, F.: Horn Sonata in F Major (Hill)

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ツェルニー:ピアノ協奏曲イ短調/リース:ピアノ協奏曲嬰ハ短調

CZERNY: Piano Concerto in A Minor / RIES: Piano Concerto in C-Sharp Minor

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初期のロマンティック・ピアノ協奏曲集

EARLY ROMANTIC PIANO CONCERTOS

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ウェーバー:フルート三重奏曲 Op. 63/リース:フルート・ソナタ Op. 169/クーラウ:変奏曲 Op. 63 (ポール/ヘスラー/カッセバウム)

WEBER, C.M. von: Flute Trio, Op. 63 / RIES, F.: Flute Sonata, Op. 169 / KUHLAU, F.: Variations, Op. 63 (Pohl, Haesler, Kassebaum)

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リース:フルートとピアノのための作品集(グロット/ナポリ)

RIES, F.: Flute and Piano Works - Flute Sonatas / Introduction and Polonaise / Variations on a Portuguese Hymn (Grodd, Napoli)




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